FaxConnect 1 報告書

東京工業大学 大野研究室

WIDE Project

1999年1月14日


1 はじめに

本報告書は、1998年12月1日から2日にかけて米国カリフォルニア州SanJose 市内のHiltonホテルにて開催された、FaxConnect1での実験内容とその結果につい て述べるものである。報告者らはWIDE Projectおよび東京工業大学の立場で、 PC-UNIX上に実装したFreeSoftware版の実装を携えてFaxConnect1に参加した。 参加した団体は以下の合計17団体である(順不同)。 主催であるIMC, FaxConnect1などについてはFaxConnect1のホームページを 参照して欲しい。URLは以下である。
http://www.imc.org/imc-faxconnect/

2 WIDE版インターネットFAXの概要

WIDE版インターネットFAX(WIDE/IFAX)はPC-UNIX上に実装されている。 WIDE/IFAXはRFC2305で規定されたIFax deviceの機能をもつ。e-mailメッセー ジの送受信、受信したメッセージの印刷、Onramp/OfframpGatewayの機能を有 する。単体でメールサーバとして機能し、直接SMTPを用いてe-mailメッセージを 送受信することも、メールサーバからPOPを用いてe-mailをとりだすことも可能で ある。著者らは従来から用いられているフリーソフトウェアを積極的に採り入 れるという方針でWIDE/IFAXを開発した。WIDE/IFAXはソースコードを公開し、 フリーソフトウェアとして配付する予定であり。詳細な情報は以下のURLから 入手できる。
http://www.ohnolab.org/researches/ifax/

3 全体を通した実験内容と結果

本章では2日間の実験期間中に行われた実験内容と、その結果の概要について 述べる。各日に行われた個々の接続実験について次章で述べる。

3.1 実験内容

今回のFaxConnect1の目的はRFC2305で規定されたインターネットFAXの基本機 能が正しく実装されていることを確認するというものである。性能評価ではな く、あくまで機能の評価に主眼がおかれている。RFC2305ではシンプルモード InternetFAXの機能として、以下が規定されている。
   Internet mail             =>  Network printer
   Internet mail             =>  Offramp gateway (forward to G3Fax)
   Network scanner           =>  Network printer
   Network scanner           =>  Offramp gateway (forward to G3Fax)
   Network scanner           =>  Internet mail
今回参加した組織の多くはプリンタとスキャナを含めて一つの系としており、組織間 での接続項目としては、以下のものを確認することとなった。

3.2 実験環境

会場では「コ」の字型に並んだ机に組織ごと席が割り当てられており、 10Base-Tハブと電源タップが用意されていた。また、OffRamp/OnRamp Gateway の試験用に、公衆電話回線と、CiscoおよびWIDE Projctから回線エミュレータ が持ち込まれた。また、通常のG3FAX付き電話機も用意された。

最初に、各組織に割り当てられたIPアドレスやMailボックス名とともに、 各々が提供できる機能の一覧が書かれた資料が配付された。個別の相互接続実 験はこの情報をもとに行った。この資料と同一の内容をまとめたものが 表1である。

各組織が提供した機能
会社機能ハードウェア等
A社SMTP-rcv,snd
TIFF(S,F)
DSN,MDN
FAX=TELNUM@domain
If busy(transient
err),send to Mail-box
B社SMTP-rcv,snd
[LAN-POP]
STN-T.30
B@domain
C社SMTP-snd,POP-rcv / TIFF-FX
D社SMTP-snd,POP-rcv / TIFF(all)
TIFF(all)
E社SMTP-rcv,snd / TIFF(F)@
F社SMTP-rcv,snd / TIFF(S,F)
G社SMTP-rcv,snd
TIFF(S,F,J,C,L,M)
SMTP-rcv,snd
TIFF(S,F)
SMTP-snd,POP-rcv
TIFF(S,F)
H社SMTP-snd,POP-rcv
TIFF(S)
IC FAX 3200
STN-T.30
I社SMTP-rcv,snd
LAN/POP-rcv
TIFF(S,F)
TELNUM@domain

J社SMTP-rcv,snd
TIFF(F)
POP-rcv,TIFF(FX)
POP-rcv,TIFF(FX)
TELNUM@domain


K社SMTP-rcv,snd
[STN]
<any>@domain
L社SMTP-rcv,snd / POP-rcv FAX=TELNUM@domain
WIDE ProjectSMTP-rcv,snd / POP-rcv
TIFF(F)
2-line STN
available
N社SMTP-snd / TIFF(S,F)
O社SMTP-rcv,snd / POP-rcv
TIFF(S)
P社SMTP-snd,POP-rcv
TIFF(S,F)
PSTN-PPP
Q社SMTP-rcv
PSTN
FAX=+TELNUM@domain

3.3 実験結果のまとめ

WIDE/IFAXと他組織との接続結果について述べる。16組織のうち13組織に対し てはe-mailメッセージによる送受信が確認された。また2組織との間では Offramp/Onrampの接続実験を行い、そのどちらとも成功している。

実験期間中に2社からのe-mailメッセージを正常に処理できないという問題が 発生した。送信元が作成したe-mailヘッダに誤りがあったことが原因であった。 その場での議論の後、修正後再度実験を行った。その結果、1社からのe-mail メッセージは正しく処理できるようになった。他の1社からのメッセージにつ いては原因、対処方法ともに判明したものの先方の対応がまにあわず、最終的 に受信は確認できなかった。

e-mailメッセージの送信/受信の片方の機能しか有しない組織とは、可能な組 み合わせのみの実験を行い、該当するすべて組織との間で正常に送受信ができ ることが確認された。

Offramp/Onramp機能についてはWIDE Projectと他の2組織とが実験しただけで、 FaxConnect1全体として見た場合は、次回への課題として残る結果となった。 会場での合意では、次回FaxConnect2は1999年5月に開催されることとして、 FaxConnect1は終了した。

4 実験の詳細

WIDE Projectが会場に持ち込んだ実験機材のうち、主なものは以下の通りであ る。

4.1 12月1日 (実験初日)の実験結果

実験内容

各組織のInternet FAXの相互接続性を調べる実験を行なった。 各Internet FAXがSMTP経由、公衆電話回線経由で送ったFAXデータを 受け取った組織が正常に受け取れるか調べる。 また、他の組織が SMTP経由、公衆電話回線経由で送ったFAXデータを正常にこちらで 受け取れるか調べる。

以下、一日の経過を追って述べる。

9:00

接続準備開始。機材の設置と接続を開始する。WIDE Projectはコの字型 に配置された机のちょうど角の場所が割り当てられていた。机の上には 10BASE-TのHUBが置かれ机の下には電源タップが用意されていた。著者は機材 の数が多かったため、電源についてはさらに持ち込みのテーブルタップ を接続して用いた。HUBについては用意されていた16ポートのHUBに直接 接続した。

まず主力機であるLibrettoの設置を、以下の手順でおこなった。

  1. Librettoと専用のポートレプリケータを接続する。
  2. LibrettoにPCMCIA EthernetCardを接続し、 会場に設置されていたHUBに接続する。
  3. LibrettoのポートレプリケータとBJC50vをパラレルケーブルで接続する。
  4. LibrettoにPCMCIA FaxModem Cardを接続する。
  5. Librettoの電源を入れる。

この後Libretto上でネットワーク設定を行った。IPアドレスはあらかじめ一組 織につき3つのアドレスが割り当てられていた。追加申請が可能とのことだっ たので、著者らは持参した個人用の端末のためのアドレスをふくめ、更に2つ のアドレスを追加申請した。必要なネットワーク設定情報や参加組織の情報な どは、紙の資料で配布された。

次にLibretto上でWIDE/IFAXの動作確認を行う。SMTPで相手にFAXデータを送る ために、必要なモジュールの動作を確認した。ここで不具合が見付かり、現場 でプログラムの修正を始める。

13:00

不具合の対処がほぼ終了する。SMTP経由でのFAXデータの受渡しが可能 になる。

15:00

実際に接続実験を開始する。他社との接続交渉をはじめる。 接続交渉は以下の手順で行った。

この日のSMTP経由での実験結果は以下の通りである。

SMTP経由でWIDE/IFAXから送信した組織 --4組織
SMTP経由でWIDE/IFAXが受信した組織 --3組織

この日はOnRamp/OffRampの実験はどの組織も行なわなかった。

17:00

公式な実験は終了。 この後WIDE/IFAXのOnramp/Offrampの動作確認をする。

22:00

作業を終了する。

4.2 12月2日 (実験2日目 最終日)の実験結果

以下、一日の経過を追って述べる。(時刻はおおよそ)

9:00

実験開始。この日はSMTPの受送信とOnramp/Offrampの実験を行った。 この日のSMTP経由での接続実験の手順は昨日と同様である。 SMTP経由での接続実験結果は以下の通りであった。

SMTP経由でWIDE/IFAXからの送信実験をした組織 --11組織
SMTP経由でWIDE/IFAXでの受信実験をした組織 --11組織

このうち、WIDE/IFAXでの受信に失敗した組織が2組織あった。 この2組織をそれぞれX,Yとすると、失敗した原因は以下の通りである。

組織Xから送られてきたe-mailメッセージには、mailヘッダ中にTo: フィールドが存在しなかった。WIDE/IFAXではmailヘッダの内容に 基づいてメッセージに対する処理を決定する。特に自分あての メッセージか否かの判別をToフィールドの値にもとづいて行って いたため、組織Xからのメッセージを正しく処理できなかった。

組織Yから送られてきたe-mailメッセージについては、Content-Type: フィールドのboundaryオプションの値に問題があった。最初はこの 値が著しく長かったため、WIDE/IFAXが正しくMIMEデコードできな かった。この点について組織Yと議論した結果送られてきたメッセージ では、\verb+ boundary="letters" + という形式になっているべきものが \verb+ boundary=letters + という形式になっていた。このためやはりWIDE/IFAXではMIMEデコード に失敗した。

組織Xについては議論の後、問題は解決されたが、組織Yについては 最終的にWIDE/IFAXでは正しく受信できなかった。

11:00

自組織の実装がRFC 2305の各項目を満たしているかを確認するための チェックシートが配布される。

12:00

一部の関係者を対象にWIDE/IFAXのOnRamp機能のデモを行う。 内容はG3 FAXで受信した内容をe-mailメッセージにし、自分自身 に送り直してプリンタから出力するというものであった。 この時に用いた回線エミュレータはWIDE Projectが持ち込んだもので あった。

13:00

各組織の代表者が集まってミーティングを行う。

15:00

再度各組織の代表者が集まってミーティングを行う。

16:00

実験が可能な組織だけでOnRamp/OffRamp機能の実験を行う。 この時に用いた回線エミュレータはCiscoが持ちこんだものを使用した。

G3 FAX経由でWIDE/IFAXで受信した組織 --2組織
G3 FAX経由でWIDE/IFAXから送信した組織 --2組織
17:00

Closing.

SMTP経由での接続について概ね良い結果が得られた。 Offramp/Onramp機能についてはWIDE Projectと他の2組織とが実験した だけで、全体として見た場合は次回への課題として残る結果となった。 会場での合意では、次回FaxConnect2は1999年5月に開催されることに なった。

5 まとめ

今回の実験の結果、いくつかの問題点が明らかになった。WIDE/IFAXはフリー ソフトウェアを積極的にブラックボックスとして取り入れている。この事は UNIXベースのシステムの強みであり、同時に開発工程を大幅に減少できた。し かし、ブラックボックスの部分で不明な点が発生したときの対応に困ることに なった。一例を挙げると、WIDE/IFAXではTIFFフォーマットの作成をHylaFaxと いうフリーソフトウェアに付属のプログラムに依存している。開発者は WIDE/IFAXが送信しているフォーマットはTIFF-Fであると信じていたが、実験 終了後Xerox社が提供したTIFF profile checkerの結果によるとTIFF-F/Sとも に当てはまると判断された。(結果としてはRFCに準拠していたのだが)現在著 者らは独自にTIFF解析プログラムを開発する必要があると強く感じている。

また子細な点ではあるが、送信用のサンプル画像をあらかじめ用意しておくべ きであったと反省している。無論正しく送れることがわかるようなものであれ ば、どのような画像でも実験上差し支えはないのだが、組織の特色を打ち出し た魅力的なサンプル画像は実験に華をそえるものであると感じた。WIDE Projectでは東京と連絡をとり、富士山の絵が入ったサンプル画像を作成した のだが、完成したのが実験終了間際であったため活用することができなかった。 次回FaxConnect2ではこういった点についても余裕をもってとりくみたい。

とはいえ全体として概すると、今回の実験ではほぼ全ての組織との正常に接続 できることが確認でき、大きな収穫であったといえる。OnRamp/OffRampについて 十分な実験が出来なかったのが心残りであるが、現時点でこれらの機能が実装済の WIDE/IFAXがアドバンテージを持つ事は事実であり、1999年5月に予定されてい るFaxConnect2を目指して開発プロジェクトをすすめていく予定である。


ifax-talk@ohnolab.org
Last modified: Tue Mar 9 17:21:36 1999