論文の書き方(構成の組み立て)

論文の書き方にも文学作品と同様、構成の立て方、文体ともに流派があります。 したがって、ここで紹介する方法が絶対というわけではありません。 しかし、このところあまりに筋書きが通っていない論文の赤いれ依頼が まわってくることが多いため、せめて筋が通っている状態にしてから 持って来てよね、という心があって書きました。
作文技術や論文作成術に関して他人にどうこういえる立場ではないのですが、 学部生や修士1年くらいまでの学生の皆さんが、自分が書いた原稿をチェックする ときに、気をつければならない点を整理して書いたつもりです。

はじめに

研究といってもいろいろな種類があります。実験が主体になるもの、調査が 主体になるもの、実装が主体になるもの、机の上の計算が主体になるもの。 ここでは、システム開発を生業とするタイプの研究論文を対象とします。 このタイプの研究論文は、以下の部分から構成されると考えると分かりやすいです。 これは私の指導教官からの受け売り+αですが。

  1. Motivation
  2. Innovation
  3. Organization
  4. Evaluation
では、それぞれについて以下順を追って説明していきましょう。

Motivation (研究の動機)

ここでは、研究の動機を語ります。そもそもの関連する業界の動向とか関連す る分野の最新研究をまじえつつ、どういう点に問題意識を感じたのか、なぜそ の問題をとりあげなければならないのかについて述べます。したがって以下の 点に触れなければなりません 書き方としてはかならずしもこの順番に並ぶ必要はありません。まず大まかに そのテーマの分野での現状を述べたのちに、あらためて関連研究の調査結果を 述べ、問題点を主張するという順番もありえます。

Innovation (新規性の主張)

ここでは、これまでに述べた問題点を解決する手段を提案します。その手段は 新規性があるものでなければならず、その新規性を裏付けるのがこれまでの現 状調査です。いうまでもないことですが、この解決手段は先に抽出した問題を 解決するものでなければなりません。

Organization (その実現)

ここでは、innovationの箇所で述べた問題解決手段の実現についてのべます。 その実現手段がシステムの開発であれば、設計と実装がこれにあたります。こ こでは既に解決方法は決まっているので、ここへきていくつかの方法を比較検 討してはいけません。仮に二つの解決方法を比較検討する内容の研究であれば、 その比較の議論はinnovationで行い、organizationはひたすらそれぞれの実現 について説明をします。このパートでは実装方法等以外での議論を述べる余地 はありません。

Evaluation (評価)

実験とその評価です。いわゆる実験系の研究分野では、実験そのものが organizationになるのでしょうが、システム開発系では実験は評価のためのも のという分類をしたほうが整理しやすいかと思い、あえてこちらに分類しまし た。ここで述べなければならないのは、実験結果がmotivationで述べた問題を 解決しているか否かです。仮にこの論文では部分問題のみを扱うのであったり、 予備実験までの範疇とするのであれば、その点を明示し何のために実験を行う のかに触れなければなりません。定量的か定性的かどうかは問題ではありませ ん。評価したい事項を定め、その事項を満たすか否かが評価結果です。もちろ んあまりにも定量性を欠いていると、科学論文として認められないのはいうま でもありませんが。
Masahiko KIMOTO <kimoto@ohnolab.org>
Last modified: Sun Sep 5 22:45:49 1999