IAAの今後を考える

第1版: 2007年4月6日
公開: 2007年4月6日
著者: 木本雅彦

背景

WIDEプロジェクトで1995年から開発が始められたIAAシステムは、 その後通信総合研究所が開発に参加し、 開発者の相互交流のための IAAアライアンス の立ち上げなどを経て、 現在では実質的にサービス停止状態にある。 IAAアライアンスの今後の展開については、公式サイトにてアナウンスがあるだろう。

現在、IAAと類似のサービス(災害時伝言板など)は、多数立ち上がっている。 しかしそれらの間の情報の相互交換は実現されていない。 IAAアライアンスはこの点を解消することも活動の視野にいれていたが、 大きな影響は与えられずにいる。

また、WIDEプロジェクトで開発されたIAA98は、フリーソフトとして公開 される予定だったが、実現されていない。その後開発されたNetstarIAAは インターネット応用技術研究所(現・株式会社クルウィット)の製品であるため フリーの実装としては公開されていない。通信総合研究所で 開発された通称MonstarIAAも、通総研の所有物であり公開されていないし、 動作条件が巨大なためソフトウェアを公開されても実用的ではない。

このような状況をかんがみて、筆者は独自で、IAA相当の機能を持つ OpenIAAを開発し、ソースコードを公開して自由に利用できるように する作業に取り組んでいるが、時間が取れないこともあり 進捗は好ましくない。

八方塞がりである。

SNSとIAA

しばらく前から筆者が考えているのは「mixiのトップページにIAAボタンが あれば、それで充分じゃないのか?」ということである。

mixiの上段のメニューの中に「IAA」というボタンがあり、それを押すと 現在の状態を登録する画面に遷移するようにする。 もちろん、公開範囲は設定できるようにし、最終更新日時は明記するようにする。 マイミクの安否情報を把握できる機能である。

IAAシステムの開発途中で議論となったテーマの1つに、個人情報の 取り扱いをどうするべきかというものがあった。 SNSではもともと個人情報の公開範囲は枠組みのなかでユーザが 指定してある。SNSの枠組みの中にIAA情報の 公開を取りこめば、ユーザによるIAA情報の公開の同意を得たことにも なる。

IAAシステムは誰でも登録できて誰でも検索できるものだった。 一方SNSでは情報が伝わる範囲は、友だち関係に限定される。 しかし、考えてみれば自分が無事かどうかというIAA情報は、 SNSで繋がっている範囲だけに伝われば必要条件は満たせる のではないだろうか。 SNSで繋がっていないつきあいの人の安否なんて、 気にしたところで仕方がないという関係性が、現在の社会の一部には存在する。

またIAAシステムでの議論として、個人の特定をどうするか という問題もあった。氏名や電話番号など、多数の情報を登録して 貰えば個人の同定は確実になるが、反面個人情報の取り扱いの責任の 問題や、登録時の手間が煩雑になるという問題が発生する。 しかしSNSでは個人情報は前もって登録されているし、SNSにおける 「個人」というのは、周囲との関係性において導出されるものである ともいえる。つまりIAA情報を伝達する友だち関係の範囲が、同時に 「個人」を規定するとも言えるため、個人の特定という問題は解決できる。

では、筆者が個人として何ができるかと考えた時に、 OpenPNE という フリーのSNSシステムに注目し、これにIAA機能を追加できないかと 考えている(あえてオープンソースという表現をしないのは、OpenPNEの 開発体制はバザールモデルとはいいがたいためである。ちなみに筆者は まだ開発者SNSに入れていない)。当座、個人で 出来る作業はそのあたりだろか。

IAAの相互接続はどうあるべきか

mixi、gree、MySpace、orkut、それぞれのトップページにIAAボタンが 追加された世界を想像してみよう。 それらのIAA情報は相互接続されていない。 一見不健全なように見える。

ここでOpenPNEの開発目的を引用してみよう。

「すべてのタテマエにSNSを供給すること」

筆者はこのポリシーに非常に共感できる。SNSが交際範囲を示していて、 色々なタテマエを持つ人は、タテマエごとの交際範囲を持ち、 交際範囲ごとにSNSが存在する。 これと同じことはIAAにも言えて、つまりIAAを伝達したい範囲と いうのも、タテマエの数だけ存在するのではないだろうか。

もしこれが真だとすると、システム側で勝手に相互接続して、IAA情報が 自動的に伝播するのは、実は好ましくないのではないか。 我々は分散データベースを作ることにこだわりすぎたのではないだろうか。

ここで、各々のSNSが勝手にIAA情報を持った状態を仮定してみよう。 携帯電話キャリアなどが勝手に安否情報掲示板を立ち上げている現状に 近いが、よりユーザ寄りの状態である。つまり、安否情報掲示板は 普段は利用しないが、SNSのトップページは多くの人は巡回コースに 入っていて毎日眺めているためユーザへの親和度は高いという違いがある。

ここで、いざ災害が発生し、自分のIAA情報を登録しようとすることを 考えてみる。すると、登録しているSNSが多すぎて 登録するのが面倒臭いという事態が発生する。 ここに至り改めて、ユーザはIAA情報が相互接続していると嬉しいと 考えるのではないだろうか。 ここで改めて、ユーザ視点に立ったIAAの相互接続はどうあるべきか という議論ができるのではないだろうか。

もしかしたらIAAの相互接続は、ユーザインタフェースのレベルで 実現するべきものなのかもしれない。メタUIとでもいうか、複数の SNSの登録画面のwrapするようなインタフェースを用意するのである。 またDBの連携を考える場合でも、伝播させたいドメイン をなんらかの方法で指定する必要があるのかもしれない。そのドメインは なんであろう。SNS単位だろうか、地域単位だろうか。

最初に分散データベースありきではなく、ユーザ視点ありきでIAAの 相互接続を再検討する必要があるのではないかと考える。

分散するということ

とは言え、東京で地震があったらサーバが全部止まるというのは 現実的ではないので、耐故障性という意味での分散化は必要になる。 しかし、IAA開発当初の1990年代後半と異なり、 背後にデータベースを備えた大規模Webアプリの構築技術は広く普及している。 何を新規開発する必要があるのかという見極めは必要だろう。

IAAデータベースの分散化は、耐故障性の確保と、アドホックなDBの立ち上げ というcontextで、これまで語られてきた。 これらの議論は現在でも有効であるが、よりアプリケーションとの連携を 考えたかたちで検討する必要があるだろう。 例えば被災地でアドホックなIAAデータベース=SNSを立ち上げる場合、 そこでの友だち関係をどうやって築いてDBに反映させていくか、などである。

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Masahiko KIMOTO, Ph.D. <kimoto@ohnolab.org>
Last modified: Fri Apr 6 16:45:43 JST 2007